編者があれなんで、ストレートな「恋愛」の「愛」じゃないです。
どこかの国の首相の、最近話題になったの発言風に言うと、「狭義では、愛とは呼べないかもしれないが、広義ではこれも愛といえる」って感じでしょうか、そんな物語が集められています。
とても悲しすぎるのですが、梅崎春生「猫の話」が、いいですね。
ほかには、
・「狐になった婦人」デイビッド・ガーネット/井上宗次訳
愛する奥さんが、突然狐になっていまう。そこから、主人公デブリック氏の、愛と葛藤の物語。
まあ、ありえないことだけどもう、もし、じぶんの奥さんが(しかも奥さんはいない)狐になったらと考えてしまうぐらい、ありえない話だけども感情移入してしまう。
・「砂糖」野上弥生子
昭和の戦争へと向かっていく時代の、主人公、世話好きで、誰からも愛される房子さんと、友達の和子さんの軽妙な言葉のやりとりがよい。また、和子が房子の訃報を受けたときの表現が印象的。
いつもはぢいぢい雑音がはひつて、半分もわからないことの多い電話が、今日に限つて意地わるく明瞭に聞こえたのが腹だたしかつた。それはまた、この危険な時節に、なんだつて船なんかで帰つたのか、と思ふ腹立たしさでもあつた。和子の胸はむしろ硬ばり、悲しくもなんともなかつた。ただ涙が出た。唇に流れ込む塩つぱい水を舌の先で嘗め、話がきれたのにまだ握つてゐた受話器を、がちやりと乱暴にかけた。砂糖を一杯持って帰って、みんなを喜ばそうとした房子に起こったことが、「なんだつて船なんかで帰つたのか」、「唇に流れ込む塩つぱい水」という、この短い独白で表現されている。これはすごい文章ですね。
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